タップの向うは不思議の町でした。

世の中のプロモーションを勝手にPICK UP ! (ライター:斉藤ふたり)

2011年のカンヌライオンズを振り返る

 

--2010年、2011年頃の日本のカンヌ受賞受賞作品--

 

2010年
KDDIの「IS parade」、インテル「The?Museum of Me」

2011年
【サイバー部門】SOUR「映し鏡」/ユニクロLuckyLine
【フィルム部門】NTTドコモ「森の木琴」/JR九州「祝! 九州縦断ウェーブ」
【アウトドア部門】東芝「10年カレンダー」

ソーシャル連携施策が全盛の頃

 

 

--2011年 トピックス--

 

「カンヌ広告祭」から「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」へ。タイトルから“広告”が消えた。

世界最高峰の広告フィルムの祭典として名を馳せた「カンヌ広告祭」だが、近年、SNSを絡めた施策とか、NIKEのfuelbandなどのプロダクトまでもが審査の対象になり、もはや広告ということばではくくれなくなった。そこで、マーケティング・コミュニケーション業界における”広義のクリエイティビティ”を賞賛する祭典「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(”Cannes Lions International Festival of Creativity”)として生まれ変わった。

 


--2011年 トレンド--

 

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①広告の役目が「伝える」から「関係構築」に

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ソーシャルメディアで人と人とがつながっていくことは、もはや当たり前という空気感。「生活者にいかに伝えるか」から「生活者とどう関係をつくるか」みたいな、広告の役目が「伝える」から「関係構築」にシフトした。
そのためには、「共感できるコンテンツ」が重要で、それさえあれば、マスメディアであろうがネットだろうが、どんな伝送経路でも必ず人にたどり着くみたいなことが言われていた。

 

■ESTLERA TOYS/"カムバック・フェロラマ"

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ダイレクト部門のゴールド。

 

ブラジルに、フェロラマという鉄道ファンに人気の高いミニチュア機関車の模型があるが生産中止になっていた。そこで社長が、再生産を判断するためにファンに課題を出した。限られた長さのレールをとぎれることなくつないで汽車を走らせ20キロ先のセントジェームズ教会にまでたどり着けば生産中止になっていた鉄道模型を復活させようと呼びかけたことがはじまり。これに応えるべく、熱い思いの鉄っちゃんたちが立ち上がった。丸3日間に及ぶミニチュア汽車の旅は一般人をも巻き込んだムーブメントに。結果、フェロラマは再生産され、完売した。


・ファンを巻き込み、つなげるコミュニケーション。
経営判断をファンに委ねるという大胆さ。
・予定調和じゃないリアルさ。

 


■KANDIA DULE/"AMERICAN ROM"

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ルーマニアのチョコレートバーROMの活性化施策。
ROMチョコレートはルーマニア国旗パッケージが特長のチョコレートバー。
ルーマニアは経済が停滞し、若者が国産を好まず、いいものは輸入品と思っている環境があったため、若者からはROMチョコレートは、ダサいと思われていた。そこで、思い切ってグローバル化と称してパッケージをアメリカ国旗に変更して発売。それをあおるCMも展開。
これに対し、ルーマニア国民の愛国心に火がつきSNSなどで「なんで、そんなことするんだ」「アメリカにチョコまで支配されてしまうなんて嫌」と、まさに炎上状態に。
そして一週間後、実はジョークだったんだよと、ネタばらし。
話題喚起のみならず、売り上げに大きく寄与したキャンペーン。ひとつのアイデアが、全国民を巻き込んだということが評された。

・今で言う、炎上マーケティング
・これをやりきる”大胆さ”、”勇敢さ”
・ROMチョコレートはダサいと思われている。だからパッケージを変える。というアイデアのシンプルさ。

 

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②企業活動の本質的課題解決のための、広告以外のアイデア

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クリエイティビティをただのアテンション獲得のために発揮するのではなく、ビジネスの本質的な課題解決に向けて、広告以外のクリエイティブ(社会貢献活動、商品開発やサービス開発もふくめて)を研究して取り込んでいこう。

 

■TESCO/"ホームプラス 地下鉄バーチャルストア"

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メディア部門のグランプリ他、多数受賞。

 

ホームプラスは、韓国でNo.2のスーパーマーケットだが、これ以上店舗数を増やさずに、No.1の座を獲得するために何が出来るかを考えたのがこの施策。地下鉄に巨大ポスターを掲出。ただの商品が羅列してあるポスターかと思いきや、商品ひとつひとつにQRコードが付いていて、これを携帯で写メると、その商品が自宅に配送されてくるというもの。そもそも韓国は世界第2位のハードワーキングの国。スーパーに買い物に行く時間すらなかったり、それが億劫だったり。TESCOは、お店を、お客さんの通勤導線である地下鉄のホームにバーチャルストアをつくることで、便利なサービスとして生活者に受け入れられた。結果、オンラインセールスは130%の伸びを示し、オンラインセールス部門ではN0.1のシェアを獲得したとのこと。


・「お客をお店に連れてくるのでなく、お店がお客のもとへ行く」という視点

・ただアテンションを獲得するだけでなく、直接的に企業活動に貢献する、ビジネスシステムそのものをつくり、実際に物を動かした。

 


フォルクスワーゲン/"THE SPEED CAMERA LOTTERY"

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チタニウム部門グランプリ。これからのコミュニケーションの方向を示唆する、最も革新的なキャンペーンに与えられる賞

 

フォルクスワーゲンスウェーデンがクルマの走行速度を低下させるという目的で行ったキャンペーン。

フォルクスワーゲンはfun theoryという応募キャンペーンを行っており、これは「人は、楽しいことを指向する」という人間のシンプルな行動原理をテーマに一般からキャンペーンアイデアを募集しており、グランプリをとったアイデアがこれだった。
そのアイデアが、道路脇にクルマのスピードが測れるスピードメーターを置いておいて、そこを通り過ぎる時に、表示されているスピードぴったりの速度を走れたら賞金がもらえるという「スピードカメラくじ」。実際、この道路での平均時速が7キロも落ちた。


・「違反したら罰則」ではなくて、「守ったらいいこと」に発想を変えた。

・本業にかかわる部分で、企業として世の中にどのように貢献していくのか、責任を果たしていくのかというのが、評価されるようになっていく。(ソーシャルグッド)

・こういったソーシャルグッド的な施策というのは生活者の共感を得やすいということで、各社がソーシャルグッドを意識し始める。

 

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③アテンション獲得のためのクリエイティビティ

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メッセージが届きにくくなっている中で、圧倒的なクオリティでアテンションを獲得する、面白さ至上主義的な視点は常にある。

 

ペプシコ/"WALKERS CRISP"

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今回新設された、成果を評価する部門「クリエイティブ・エフェクティブネス部門」のグランプリ。

 

イギリスのスナック菓子「WALKERS CRISP」の事例。ランチ時に好まれる「サンドウィッチ」と「WALKERS CRISP」を一緒に購入させるのを目的とした施策。
「WALKERSはどんなサンドウィッチでもエキサイティングにする、例えケント州サンドウィッチでも」といって、イギリスの田舎街の「サンドイッチ」に有名スターが続々と集結してこの「WALKERS」をプロモートするというキャンペーン。
著名人を起用したイベントを開催したり、彼らが出演するテレビCMを現地で撮影したりと話題づくりに励んだほか、ジャーナリストなどを巻き込んだPR施策を展開。さらに、小売り店頭でサンドウィッチの近くに「WALKERS CRISP」を陳列するように働きかけたことにより、結果「WALKERS CRISP」の収益を26%伸ばした。

・話題づくりのためのセレブリティを活用したCMを中心に、SNS、リアルイベント、PR施策など立体的な取り組みで、話題を最大化。斬新さはないが、 「仕掛け」自体のクリエイティビティに注目が集まる。

・大きなスケールで、投資を惜しまずやりきる勇気が評価されたし、ばかばかしいことをこれほどのスケールで真剣に取り組む姿勢は、生活者の共感を得やすい。